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SiC応用技術共同研究講座

次世代SiCパワーデバイスを活用した独創的・革新的技術により、 豊かな未来づくりに貢献します。

SIC応用技術共同研究講座

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SiC応用技術共同研究講座

中村 孝先生ご経歴
1990年:関西学院大学理学部物理学科を卒業後、ローム株式会社に入社
1998年:京都大学工学研究科博士号取得 株式会社ロームで2000年頃からSiCの研究を始め、2009年ローム株式会社研究開発本部新材料デバイス研究開発センター長に就任
2014年:福島SiC応用技研株式会社社外取締役
2017年:福島SiC応用技研株式会社を設置企業としてSiC応用技術共同研究講座を大阪大学大学院工学研究科に開設。大阪大学大学院招へい教授
2018年:福島SiC応用技研株式会社取締役
2021年:ネクスファイ・テクノロジー株式会社代表取締役社長 大阪大学大学院工学研究科 招へい教授


電力変換や電力制御に利用されるパワーデバイス、
その分野でSiC(シリコンカーバイド)は次世代の材料として注目されています。
今日はSiC応用技術共同研究講座の中村孝先生にお話しを伺います。
ご研究について教えてください。

※SiC(シリコンカーバイド)とは、炭素と珪素が1:1の化合物で、炭化珪素のこと。
隕石の中にわずかに含まれるだけで、天然には存在しない化合物で硬度、耐熱性、化学的安定性に優れ、研磨材や耐火物、発熱体などに使われています。
半導体素材としても開発が進んでおり、シリコンに比べて高電流、高温に強く、電力損失が少ないため電源向けなどのパワー半導体として期待されています。

パワー半導体は、高電圧・大電流を扱える半導体。主に電力の供給や制御を行う電子部品として使われている。
今までシリコンが使われていたエリアがSiCに置き換わってきている。
例えばEV。テスラ等に使われてSiCは広がってきている。(※米テスラが2017年に「モデル3」に初採用したのを手始めに、海外自動車メーカーを中心に、SiCパワー半導体の採用が加速しています。)
講座ではシリコンではできなかったことがSiCなら可能、応用できるということを追求している。
当初はニッチなエリア、特殊なエリアしかなかったけれども、ニーズがあるということがわかってきた。
講座ができた当初は様々な研究をやってきたが、今はどちらかいうと高電圧、電圧が非常に高いものを中心に展開している。
EV車やエアコンの室外機にもSiCは使われているが、電圧はせいぜい数100ボルトから1000ボルトくらい。
我々がやっているのはそれの10倍以上の電圧のエリア。
高い電圧を使っているものとしては、加速器があげられる。
加速器用のパルス電源は、高電圧、大電流で高速であることが要求される。
現在は真空管を用いたパルス電源を使っている。
高電圧のものを高速にスイッチングさせる高電圧高速スイッチモジュール技術というのは世の中にはなかったが、それを何とか作ろうということになった。 今はこの技術にフォーカスしてやっている。

前に携わっていた会社(※株式会社J-BEAM 旧商号:福島SiC応用技研株式会社)で中性子線のガン治療装置(BNCT)に取り組んでいた。
医療や産業用加速器を推進する場合、SiCパワーデバイスの特性を活かすと高出力・高電圧電源の飛躍的な高効率化・小型化が可能となり、これを用いると中性子線癌治療装置に応用できる。
これまで巨大な設備が必要であった高電圧電源が小型になり治療装置とほぼ一体化することができた。(※SiC半導体による超小型中性子発生源を用いたがん治療装置「SiC-BNCT」を開発。機器は、京都府立医科大学の敷地内に設置され、「京都府立医科大学ロームBNCTセンター」として、次世代のがん治療であるBNCT(Boron Neutron Capture Therapy:ホウ素中性子捕捉療法)研究に活用される予定。)


講座では、
◇SiCパワーデバイスの特長を活かした革新的な応用について研究開発を行う。
◇素子直列接続技術とその制御技術を用いて高耐圧(~24kV)のSiCパワーモジュールを実現する。
◇さらに、直流高電圧電源を設計・試作し、中性子線がん治療機器・X線検査機器等への応用製品開発を行う。
その他、SiCの特長を活かせる応用分野を探索し、試作・実証することを目的としている。


共同研究講座立ち上げのきっかけは?

当講座メンターの舟木先生とは以前から共同研究をやっていたので、SiCを用いた応用開発をやってみたいとご相談したところ、講座を作ろう、E4棟1階の実験室が高電圧を発生させることができる部屋だから、そういう研究をする場所にちょうどいいという話になったのが経緯。
この部屋があることが、この講座を続けていくモチベーションになっている。


実験室にて

講座に着任されてから、共同研究講座のどのようなところがよいと感じていらっしゃいますか?

会社にいるときより自由がある。
会社では成果をすぐに求められるが、大学ではチャレンジングなことができるので色んな応用を考えてやっている。
今は事業家というフェーズに入ったので、的を絞って研究をしているが、そういうことができるのが共同研究講座だと思っている。


会社を立ち上げた経緯は?ネクスファイ・テクノロジー株式会社

この講座が福島SiC(※前述 株式会社J-BEAM 旧商号:福島SiC応用技研株式会社)でやっていることの一つの部署として開発センターのような立場だったが、コロナ等もあり会社の規模を縮小することになった。
検討した結果、独立してこの講座で会社を作れるんじゃないかという話になった。
諸般の事情で自分が会社を作らないといけない羽目になったので、二か月で立ち上げた。
起業するにあたって支援してくれた企業もあり、共創機構の先生方のご支援もいただけた。


会社の主力製品は?

高電圧・高速スイッチモジュールをコア技術として次世代半導体製造装置、加速器、絶縁試験機、プラズマ発生器、直流遮断器、この5つの製品ラインを定義している。
メインのターゲットとして直流遮断機がある。
高電圧を遮断できる半導体はなかったが、方法を考案してメーカーと一緒に共同開発している。
また、この技術は洋上風力の海底ケーブルなどに必要な技術で、これから需要があると思っている。

もうひとつ、今大きな市場に入ろうとしているのがプラズマ関係。
これまでにない高速高周波な電源を用いることで異次元の低温プラズマ発生器を実現させることができる。
低温プラズマは微細加工、薄膜合成、表面改質、殺菌・除菌・消毒、除害、光源などとして産業の各分野で活用されている。
フッ素系の液体も使われているが、規制等も厳しくなり低温プラズマの市場が伸びていくと予想している。
また、このプラズマを溶液中で制御しながら使用できることがわかり、これを用いて大気中・液体中の有害物質、例えば福島の汚染土壌から放射性物質除去をプラズマで処理をする話が出ている。
うちの技術でできるのではないかと思っている。
海中のマイクロプラスチックの分解も可能。例えば、今売られている食塩にはマイクロプラスチックが含まれている。この技術を用いて処理した海水で塩をつくる等、活用法が考えられる。
プラズマをこれまでにない幅広い産業の場面に活用することで、イノベーションが起きていくと予想している。
高周波高電圧がいるというところは我々の電源の出番!


業界の課題について教えてください。

技術者がどんどん少なくなっている。
1960年代くらいまでは高電圧の技術が世界でも進んでいたが、技術者がみなIT方面にいってしまって技術者がいなくなってしまった。
高電圧の研究をしている人は70歳以上。空白の期間がある。技術の継承が必要。


社会実装に向けての課題は?

物を作ってもそれに順応できる市場がないので、ソリューションとして渡さないと使える人がいない。
ある程度装置にしたら使える人が増えてくるので、ソリューションとしてどんどん提供していきたい。


理系を目指す若者や理系を取り巻く環境についてのお考えなどがあればお願いいたします。

理系離れしているといわれているがそうではないと思う。数学でつまずいて文系に流れてしまう。必ずしも難しい数学を高校でやる必要はなくて、本当に必要なことだけを教えて、そこから先に進みたかったら大学に入ってから専門的なことを学べばよい。日本の理系の人のお給料が安すぎるのも原因。夢がない。(シリコンバレーの低所得者層の年収は10~12万ドルと言われている!)
日本のエンジニアが虐げられすぎているように感じる。
大学の環境も変わった。昔は技師も助手もたくさんいて研究しやすい環境があった。
日本が技術をトップで保とうと思うのなら環境の改善と優秀な人材が海外に流出するのをとめないといけない。
環境が整えば、理系の人も増えると思う。


ありがとうございました。
富士経済は2023年4月10日、パワー半導体市場調査の結果を「2023年版次世代パワーデバイス&パワエレ関連機器市場の現状と将来展望」としてまとめたことを発表しました。それによるとパワー半導体市場は2035年に2022年比で5倍の13兆4302億円、SiCに限れば同31倍の5兆円となる見込みとのこと。益々の発展が期待されます。


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