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紀ノ岡細胞製造コトづくり拠点

水谷 学先生
経歴:1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より大阪大学大学院工学研究科生物工学専攻にて細胞製造システムの開発に従事。現在は同テクノアリーナ最先端研究拠点「紀ノ岡細胞製造コトづくり拠点」において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

今日は大阪大学大学院工学研究科フューチャーイノベーションセンター講師の
水谷 学先生に社会連携室にお越しいただきました。

先生、今日はよろしくお願いいたします。
早速ですが、「紀ノ岡細胞製造コトづくり拠点」について教えてください。

細胞製造(1)に関する共通および固有の概念・技術を構築する「コトづくり」(2)の実践を目的としています。
生きた細胞を扱う再生医療等製品(3)は従来の医薬品製造とは違う難しさがあります。
高品質の細胞を安定的に供給することが可能な社会システムの構築のため、それに携わる人材の育成が
不可欠であり、新しい技術の産業化を推し進めていく「モノづくり」「ルールづくり」「ヒトづくり」が必要です。


「コトづくり」の実践に関してですが、どのように進めていくのでしょうか?

工学研究科の強みである多彩な産業分野からの協働研究所と共同研究講座を含むコア研究室群からなる
前例のない産学官連携の頭脳集団を形成し、「細胞製造性」という新たな学問を基軸とし、気まぐれな細胞を
いかに安心・安定・安価に製造するかを導く細胞製造の技術開発「モノづくり」や、必要不可欠な規制や
国際標準化の構築「ルールづくり」、センスのよい人材の育成「ヒトづくり」を同時に行うことで社会実装
「コトづくり」を目指しています。
再生医療の社会実装に関しての一つの場所として目されているのが大阪中ノ島の未来医療国際拠点です。
さまざまな企業が参画していますが、彼らが得意なところで一緒にやれるところを検討していきたいと
考えています。
この分野が産業になっていったら教育は大学で行い、産業は、例えば未来医療国際拠点(中ノ島)などで
主軸をもってやっていく。そこで新しい技術が必要になればまた大学で研究する。
そういうサイクルになるのが理想です。


お話にあった、モノづくり、ルールづくり、ヒトづくりについて教えてください。

モノづくり ・・・細胞を製品とする細胞製造に必要な技術の構築。
ルールづくり・・・細胞製造のエコシステムを構築する技術をつなげる考え方。
        また上記に関わる規制対応や 標準化のための活動。
ヒトづくり ・・・新しい産業を理解し技術をつなげ社会実装を行う人材を育成。


社会実装に向けての課題はなんでしょうか?

細胞製造分野のコトづくり(社会実装)においては、まだルールもできていません。
例えば再生医療用の細胞製品(移植用細胞・組織)や治験において人の代わりとなる生体模倣システム(4)
いずれもまだ十分なルールがないので、コトづくりに向けたルールづくりの場にも参加して議論を行うことが
必要です。
担当省庁や関連団体と連携して新しい指針やガイドラインを作成する必要もあります。
ルールづくりにおいては企業の人や知見をもっている先生たちとの議論が必要です。
新しい産業をつくるためには一社ではできないので、複数の会社で議論、またそこをつなぐための人材が
必要と考えています。
社会実装していくための多様な人材をどうやって育成していくのか?拠点のようなものをつくる必要があり、
産官学で一緒に作るべきだと考えています。


お話しを伺うと再生医療のための製品を作るということで、医学との連携が思い浮かんだのですが、その点は
どのようにお考えですか?

細胞製造コトづくり拠点では、原則として、工学としてやるべきことをやります。
技術をもった工学の人が作った機能する培養組織が必要だと考えています。
一方で、製品ができてもそれを使える医師がいなければダメで、その育成も必要です。
その上で、工学の人が作る培養組織は、医師が簡便かつ適切に使用できるものでなければ治療はできません。
両者をつなぐことは治療を実現する上で不可欠です。
このあたりの人を治す技術開発が医工連携で一番必要とされているところであり、できあがっていくものに
対してどうやって普及させるのか、安定した品質、価格での供給、それをやっていくために、医工連携を意識した
コトづくりを推進しています。


なるほど、医工連携は異業種の人たちが同じ目的のもと、垣根を越えて協力し合うことが欠かせないのですね。
医学と工学の連携、言葉は簡単ですが、「医」の臨床現場(医学分野)と「工」のものづくり(工学分野)を実際に
連携させて成果を上げるためには沢山の課題がありそうですね。

物流に関してはどうですか?従来の医薬品の物流とは違っているのでしょうか?

医療用の細胞製造品は凍結で運ぶ場合と常温などの非凍結で運ぶ場合の両方があります。
品質を変えずに、どのように患者さんの元に届けるか、容器の問題、運び方の問題、連携(流通網)の問題、
これからルールを作らないといけない。
これに関しても一社だけでは不可能でそれぞれ得意分野があり、そこで知恵をだしあっていくことが大切です。


「コトづくり拠点」を一言でいうと。

有識者が集まり議論するワーキンググループのようなもの。
複数の企業が垣根を越えて連携、議論できるような共同研究の場。
今後新しい産業の社会実装に向けた活動の雛形になればいいと考えています。

細胞を使った製品やサービスを開発するためには細胞の品質管理、培養環境の管理、
および安全な製品化の技術や物流方法についての専門家が必要ということがわかりました。
大阪大学の強みである学の拠点と企業を結ぶ、いわゆる新産業の創出・社会実装を推進する

共同研究講座、協働研究所の制度が生かされていますね。
細胞製造コトづくり拠点は、これらを行うためのプラットフォームを提供しているということですね。
今日はお話しを聞かせていただきありがとうございました。

(1)細胞製造・・・再生医療や細胞治療に用いる細胞製品【再生医療等製品/特定細胞加工物(ES細胞やiPS細胞など)】     
       の製造のこと

(2)「コトづくり」・・・社会実装、新しい産業を作り出すための仕組(活動、プロセスを含む)としてのコトを
         つくること。
         具体的には、以下のような取り組み。
          ◇仕組・組織づくり
          ◇サプライ・チェーン・マネジメントなど
          ◇横の連携による仕組づくり
          ◇有識者とのネットワークづくり
          ◇オープンなエコシステムづくり

(3)再生医療等製品・・・以下に掲げる製品であって、政令で定めるものをいう。
           ⓵人又は動物の細胞に培養等の加工を施したものであって、
            イ 身体の構造・機能の再建・修復・形成するもの・・・再生医療製品
            ロ 疾病の治療・予防を目的として使用するもの・・・細胞治療製品
           ⓶遺伝子治療を目的として、人の細胞に導入して使用するもの
           (※再生医療等製品は生きた組織・細胞等を用いるため、製造工程のコントロールが
            難しく、安定性の面でも通常の医薬品とは異なるので、製造、保存・保管、出荷・輸送に
            おいて品質管理が重要。)

(4)生体模倣システム・・・人工物と生きた細胞を組み合わせることで,臓器の機能や構造の一部を実現する技術。

紀ノ岡細胞製造コトづくり拠点
紀ノ岡細胞製造コトづくり拠点パンフレット
大阪大学大学院工学研究科 附属フューチャーイノベーションセンター


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