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マイクロソノケミストリー共同研究講座 松田洋和招へい教授

先生のご専門について教えてください
専門分野は固体触媒です。学生時代の研究は、『新規固体触媒によるメタノールから炭化水素の高選択合成』というテーマで、自身で合成したゼオライト触媒を使ってメタノールをエチレン、プロピレン、ガソリンなどに選択的に変換していました。触媒は、合成に1週間近くかかると言われていたゼオライトを5時間以内に短縮したことで、その合成技術は当時非常に注目されました。実験で合成したガソリンを、当時通学に使っていた自身の原付のガソリンタンクに1ccほど入れたことがありました。分析上はそれがガソリンであることがわかっていても自分で合成したガソリンを入れて原付が壊れてしまわないかドキドキしたのを思い出します。私が恩師の研究室の1期生ということもあり、恩師が日本化学会賞、触媒学会賞など多くの賞を受賞された際は、その申請時に多くの論文を引用してもらいました。
どのような研究をされていますか?
共同研究講座では2つの研究テーマを実施していて、いずれも超音波の作用を利用するものです。一つは化学反応に、もう一つは蛋白質凝集過程に利用しています。
化学反応のほうは、ダイセルですでに実製造をしている製品を流路幅1mm以下のマイクロ流体デバイスで反応させ、現場の蒸留工程を効率化する試みです。テレビコマーシャルもしています。
蛋白質凝集のほうは、医療分野に貢献しようとしており、疾病の原因となる蛋白質の凝集過程に超音波を作用させ、10年以上かかる凝集時間を10時間以内に完了させることで疾病を早期に発見するとともにその症状の将来予測をして未病に繋ぐことを目指しています。

この道に進むことになったきっかけを教えてください
大学では先述のように固体触媒の研究をしていましたが、企業に入ってからは触媒関係のみならず様々な分野の研究開発を担当しました。企業で研究開発をやればやるほど実用化技術構築の難しさを実感するとともに基礎研究の重要性も改めて認識するようになり大阪大学に新たに設置した共同研究講座触媒に着任することになりました。企業での有機合成製品の実用化研究では、実験室での数百ccスケールの検討から、年間数百トンを製造する現場スケールの検討まで一貫して研究開発を担当しました。経験を積むごとに『実験室で得た結果を現場製造に結びつけるために何が必要か』を強く意識するようになりました。これは企業での研究開発で得られたことと思います。
自身が初期検討から実製造まで担当した製品の初出荷の日、大型ローリー車が運送会社を出発する様子を見に行って角を曲がるまで見送り、その後、感動で大粒の涙を流したことは今後もずっと忘れないと思います。
共同研究講座・協働研究所の利点
大阪大学工学研究科では、共同研究講座・協働研究所全体の教授・教員会が隔月で開催されるだけでなく、全体の合同イベントが年に数回あり、研究内容を相互に理解するだけでなく、双方にとってプラスになるような方向性や、1+1が2以上の結果に繋がるような協業の形はないかなど情報交換できる機会を作ってくださっています。イベントでは工学研究科、社会連携室のトップの先生方をはじめご関係の方もフルに参加されて共同研究講座・協働研究所の活動をご支援くださいます。
2023年11月、共同研究講座シンポジウムで研究内容を紹介させていただき、続いてのパネルディスカッションで元・産学連携担当副学長の先生や当日のプレゼンターの方々と産学連携について意見交換させていただいたことがありました。そのイベントをきっかけに共同研究講座での研究内容について問合せをいただき、それまで交流がなかった方々とも情報交換できるようになったこともあり大変感謝している次第です。

そんな機会の提供だけでなく、大学と企業間の契約対応なども社会連携室から細部にわたる助言をいただき非常にスムースに共同研究を進めることができています。大阪大学工学研究科に合計30以上存在する共同研究講座・協働研究所ではメンターの先生をはじめとするスタッフの方々が実装に向けて企業と同じ方向でご一緒くださっていて、『協業』以上のメリットを感じることができます。そんな環境を作ってくださっている大阪大学工学研究科、そして工学研究科社会連携室の皆様には感謝しかありません。
企業が大学内で研究することの意義

共同研究講座で実施している研究について、私が所属する講座ではその分野の世界的権威の先生がおられ、週に一度の進捗確認会、月に一度の報告会でかなり詳細なポイントまで入り込んだ議論をさせていただくとともに多くの貴重な助言をいただいています。企業での研究では、疑問点が出てきて大学や公的研究機関の先生方の助言をいただきたいことがあってもアポイントをいただくだけでも手続きが必要ですが、大学内で研究していると疑問点をリアルタイムで解決でき、大きなメリットを感じます。
この研究で難しいことは?また、研究が進まない時にはどうやって乗り越えますか?
現在の2つの研究テーマはいずれも最先端の領域のものであり、疑問点が出てくる頻度は非常に多いです。疑問点が出てきた時、自身での調査・検討に加え、ダイセルの自部門や知的財産部門、調査・情報部門などが情報入手のための協力をしてくれますので、最速の対応で技術情報を収集しています。自社の研究拠点とは異なる場所での研究ですが、自身が最大限の努力をするのはもちろんのこと、大学、自社の双方から疑問点解決、課題解決のための協力を得て乗り越えるようにしています。

松田洋和招へい教授
前列左から 湯面技術補佐員、修士2年生 浅沼さん、
富嶋技術補佐員
人々に伝えたいこと、メッセージ
今後、共同研究講座でやっていきたいこと、実現したい未来、 これから研究者、理系を目指す方々へ
化学反応のテーマはマイクロ流体デバイスの反応場を使って、製造現場の蒸留工程を効率化する試みをしています。そう遠くない先に現在試験中の実験装置を工場へ移管する予定です。引き続き実装技術確立のためのデータ取りに取り組みます。蛋白質凝集のテーマは、一人でも多くの方が疾病を早期に発見し、未病に繋げられるよう、医療現場ともタイアップして進めていきます。これから研究者、理系を目指す方には、いつも自分の身の回りのものを興味をもって観察し、いつも自分が『ワクワク』するような楽しい気持ちでいられるような環境づくりをしてほしいです。

前列左から 博士1年生 太田さん、中島助教、山口特任准教授

超音波の作用をマイクロ流路内での化学反応、蛋白質への反応制御 に有効利用する研究をしています。