SEEDSプログラム
東山 愛先生
ご経歴:京都大学大学院理学研究科生物科学専攻
博士後期課程修了(2003年)
現在大阪大学スチューデント・ライフサイクルサポートセンター,特任助教(常勤)
今日は大阪大学SEEDSプログラムについて、スチューデント・ライフサイクルサポートセンター
特任助教の東山 愛先生にお話しを伺います。
SEEDS :Science&Engineering Enhanced Education for Distinguished Students
SEEDSプログラムとは・・・文理の枠を超えた世界最先端の「知」にいち早く触れられる高校生向けプログラム。
多岐にわたる研究に触れてもらい自らの小さな好奇心の芽を大きく伸ばすのが目的です。
まずは先生のご研究、ご専門についてお聞かせください。
縁あって昆虫、特にシロアリ類の生態学を扱う研究室にお世話になることになりました。もともと動物の消化・吸収に興味があったので、朽木(炭素は豊富に含まれるが窒素に乏しい)を食べる昆虫は何から体を構成する窒素を得ているのか?という疑問をテーマに学位を取得しました。シロアリの消化というとセルラーゼの研究が圧倒的な多数派で、近年は廃材や廃棄物を酵素的に分解してエネルギー源にしようという応用研究でも着目されています。文献を調べると窒素の循環に着目した研究も長年進められていて、分析手法、測定機器の発達と共に進んできたことが浮かび上がってきました。私は消化酵素の体内分布やその種間比較、その遺伝子配列や発現部位の特定から研究を始めました。シロアリの場合は1個体だけでは窒素代謝についての議論は進められないことが判ってきて、単独飼育と集団飼育した個体で窒素安定同位体を利用したトレーサー実験に進みました。ここまでの過程で、共生微生物が窒素代謝に関わっていることが示唆されていましたので、大学院修了後は微生物学の研究室や動物の社会性に主眼を置いた研究に取り組みました。様々な分野の研究者を見ていると、素直に自分が謎に感じるテーマを追求していくタイプと、備わっている実験機器等を活かして手法はあまり変えずにテーマを変えているタイプがあるように感じています。自身は明らかに前者であり、思いついた研究計画を実現できるような環境を整え、いつでも議論の相手になってくれた周りの方々には感謝の思いで一杯です。
SEEDSプログラムについて、狙い等お聞かせください。
プログラムを楽しんでもらうことを第一に考えています。SEEDSプログラムでは、高校生に実際に大阪大学へ足を運んでもらい、大学という環境で教員の講義を聴いたり、セミナー室やカフェテリアで同世代と「めばえ道場」で議論を展開したり、研究室を訪問します。講義は、自然科学や科学技術に限らず、社会科学、人文科学分野、近年は倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issuesの頭文字をとってエルシーとも)に関する講義も取り入れています。SEEDSプログラムへの参加が、どんな大学で何を学びたいかを考えるきっかけとなれば幸いです。学内で学ぶ海外からの学生の協力で、English Caféと題した交流の機会も作っています。英語を使うことで情報源や交流の幅が急速に拡がること、大学は様々な背景のメンバーが集まって研究や学ぶ場となっていることを感じることができます。
受講生の様子を見ていますと、日頃の学校生活とは異なる同世代の仲間、「めばえ道場」や研究室訪問でアシスタントとして関わる学部や大学院生との交流も大いに楽しんでいます。
講義や議論、研究を楽しむ過程で、論理的に考える力、コミュニケーションを取る力、判断する力を多いに伸ばしてもらえれば運営側としては嬉しく思います。
SEEDSプログラムの現状についてお聞かせください。
もともとは科学・科学技術に関心のある高校生、高等専門学校生へ最新の科学技術講義や研究の場を体験してもらい、科学技術分野の将来のリーダーを育成しようというコンセプトのプログラムとして始まりました。STEM教育からSTEAM教育へという流れ、また科学技術と社会問題は切り離して考えることはできないという考えから、SEEDSプログラムも学際領域や倫理的・法的・社会的課題への取り組みも紹介したり、またアントレプレナーシップについての紹介を扱うよう変化しつつあります。
受講生側の興味分野にも変化があります。1期から5期生くらいまでは再生医療や医学、生物科学分野に関心のある受講生が目立っていたましたが、中等教育の場で情報やSDGsが取り上げられる機会が急増してきた影響を受け、AI、情報、資源エネルギー、プラスチックの分解に関心を持つ受講生が増えて来ました。受講生の関心に応えつつも、ベーシックな自然科学に触れる機会を維持できるよう心掛けています。
COVID-19の感染拡大により、可能な限りオンラインで同時配信するHybrid形式で実施するようになりました。遠方からの参加者のみならず、体調に不安がある時など、多くの受講生にも活用されています。
SEEDSプログラムの今後
プログラムが始まってからしばらくは、10年続けて成果を見ることができればと言われていました。9期生を迎えた現在、プログラムの同窓生が大学生や大学院生となり、「めばえ道場」のファシリテーターや研究室での研究体験する受講生のチューターとして関わるようになってきました。起業したり、休学して専攻とは別の事に取り組んだり、海外で学ぶ同窓生もいます。また、アシスタントとして参加する学生とも学部・研究科や学年を超えたネットワークが広まりつつあります。様々な形でSEEDSプログラムに関わった方同士の関係が、将来の起業や共同研究などで活かせるネットワークとして長く続くことを願っています。
お話を聞かせていただきありがとうございました。
SEEDSプログラムではプログラムが発足した2015年から共同研究講座・協働研究所の協力のもとに、年に一度SEEDSプログラム受講生による見学会を行っています。
本年度は11月25(土)に予定されています。