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日本触媒協働研究所

大阪大学と日本触媒の協働で、これまでに無いスピード感で大学創出技術の社会への実装を目指します。

研究者インタビューVol.5

執筆者:
日本触媒協働研究所 森井 克行招へい教授
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日本触媒協働研究所

目次

  1. 1.先生のご専門について教えてください
  2. 2.どのような研究をされていますか?
  3. 3.この道に進むことになったきっかけを教えてください
  4. 4.共同研究講座・協働研究所の利点
  5. 5.企業が大学内で研究することの意義
  6. 6.この研究で難しいことは?
  7. 7.研究が進まない時にはどうやって乗り越えますか?
  8. 8.人々に伝えたいこと、メッセージ

先生のご専門について教えてください

この25年やってきたことは有機電子デバイスに関わる材料科学や表面科学です。現在の協働研究所では、メンバーや共同研究者の協力を得ながら、専門外ではありますが、光化学からデバイス物理、さらには藻類培養なども手掛けています。

どのような研究をされていますか?

21世紀は光の世紀と呼ばれて久しいです。カーボンニュートラルが叫ばれる昨今において光は必要不可欠なものです。その光をもっとスマートに使えないかもしくはスマートな光を作れないかと思い、革新的な光技術に関する研究を進めています。代表的なものとして、「パルス光を用いた光反応」と「歪応答型発光素子の開発」があります。いずれも大学の立場をいかし、科研費を軸に学術と社会実装の両面で研究を進めています。前者は、従来法では連続光で行う光反応に、時間のパラメータを与えたパルス光を用いることで、収率向上、選択性制御、将来的には新規物質創成を目指すものです。後者は、曲げるなどマクロな応力を最終的にナノサイズの分子まで伝搬させ、応力により光物性(発光色)を変えようという野心的な試みです。マクロな応力がナノサイズの分子歪みへどのようなファクターを軸に伝搬していくかは学術的にもそれほど明らかではなく、この取り組みが解明のきっかけになればと思っています。同時に、応力が光物性を操作するデバイスができれば、まさに革新的な光の創出と言えます。

この道に進むことになったきっかけを教えてください

私は、学位取得後、一度は学術の世界に身を置いたものの、インクジェットという技術に魅了され、セイコーエプソンに就職しました。セイコーエプソンではインクジェットの産業応用を担当し、その一つが有機ELディスプレイ開発でした。さらに次世代の有機ELとしてフレキシブル化を目した「大気に安定な有機EL」という野心的なテーマを考案企画し、海外拠点での研究開発を実施、原理立証に成功しました。ただ、その段階での会社とのマッチングは叶わず、その後は、そのテーマを軸にステージ毎に、大学や企業への研究開発の場を移してきました。そして、最終的にそのテーマを持って現在の日本触媒に入社し現在に至ります。その後はNEDOなどの公的な支援を経て、曲面にも沿わせることができる世界最薄の面光源として、現在iOLED®フィルム光源の事業化を進めています。一方で、2018年より日本触媒協働研究所にて、次世代の光技術を開発するべく光を創る技術(光源など)だけでなく、光を使う技術についても着手しました。

共同研究講座・協働研究所の利点

最大の利点は、阪大を中心にそれぞれの領域で最先端を体現されている先生方といつでもディスカッションできる環境にあることだと思います。実際、その結果として、現在進めるテーマの一つである「歪応答型発光素子の開発」を思いつき、科研費申請そして採択に至りました。また、協働研究所の定義にもある研究の高度化の観点で、独自発想を基に別途採択いただいた科研費のテーマである「パルス光を用いた光反応」では、その成果をもって多方面の研究者の方と協業が進んでいるところです。このようにあらゆるステージでの様々な専門家とディスカッションする機会を多く持て、大きな花を咲かせる可能性のある種を作れるところが魅力だと思っています。

企業が大学内で研究することの意義

一つは、望めばいつでも最先端の先生とディスカッションできることだと思います。一方で、狭くなりがちな視野を広げる役目もあると思っています。様々なところで開催されるセミナーや先生方に紹介いただく小規模な講演会などはそのきっかけになります。また同時に、すぐ近くに同じ環境の企業協働研究所が存在することも視野を広げる、さらには新たな関係構築に役立ちます。通常は出会わない分野同士が産業界の間で生まれるところも良いところかと思います。

前野招へい研究員と森井招へい教授

この研究で難しいことは?

ここで紹介した二つのテーマはいずれも前例がほぼなく、進むたびにすべてが新しく理解が難しいです。ただ、そこが面白いところでもあります。過去の事例がほとんどないため、起こる現象への理解は、常に基礎的なところから積み上げる必要があり進むのに時間がかかります。しかしながら、元々未踏の地を歩んでいるため、そこで生まれる疑問はさらに新たな未踏の地への一歩であることが多く、結果としてワクワクが止まりません。

研究が進まない時にはどうやって乗り越えますか?

現状のテーマや過去のテーマを振り返っても、実はそんなに乗り換えたと実感できる経験はありません。いつも、行き詰っては少しだけ進んで、を繰り返しているような気がします。その際にやっていることは、原点に戻ってシンプルに考えること。そして、その実験をひたすらやることでした。うまくいかない時というのは道が歪んでいることが多く、一度立ち止まって俯瞰することが大切だと思っています。それでもうまくいかない時は、根本的に間違った道なので戻るようにしています。

人々に伝えたいこと、メッセージ

私の研究のスタンスは、『何年後かに、近所のおばちゃんが、“これいいね!なんだか楽しいね!”と言ってもらえるものを創ること』でした。それは今も変わりません。ただ最近少し違うのは、これを推し進める中で、達成するための技術の基盤が、学術としても未開拓である場合が意外と多いことに気が付いたことです。社会実装を目指した先に学術の新領域がある場合もあることに気づき、それに挑めるというのは協働研究所ならではないかと感じ、感謝しています。今後も自分のスタンスを崩さず邁進していくつもりですが、一方で、この循環の先にある新境地を見てみたいとも最近は思っています。

最後に、これから研究者を目指される方に、私がこの道を歩み続けようと思ったきっかけになった恩師の言葉を紹介します。“一晩で世界を変えることができるのは、研究者だけ”です。良い方向に世界をガラッと変えることができるのは、大統領でもなく、社長でもなく、実際に実験をする研究者だということです。その根底にある力がサイエンスだと思っています。是非、この世界に足を踏み入れてみてください。

前列左から 小林様、 帖佐特任教授(常勤)、森井招へい教授、前野様
後列左から松倉様、橘様、今田様、山本様

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