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NEXCO西日本 高速道路学共同研究講座

高速道路の価値の最大化を目指した「高速道路学」という新しい学問分野を開拓しています。

研究者インタビューVol.6

執筆者:
NEXCO西日本 高速道路学共同研究講座 吉田 夏樹特任准教授(常勤)
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NEXCO西日本 高速道路学共同研究講座

目次

  1. 1.先生のご専門について教えてください
  2. 2.どのような研究をされていますか?
  3. 3.この道に進むことになったきっかけを教えてください
  4. 4.共同研究講座・協働研究所の利点
  5. 5.企業が大学内で研究することの意義
  6. 6.この研究で難しいことは?また研究が進まない時にはどうやって乗り越えますか?
  7. 7.人々に伝えたいこと、またこれから研究者、あるいは理系を目指す方々へのメッセージがあればお聞かせください。

先生のご専門について教えてください

私の専門は、無機材料工学のうち、特に「セメント化学」と「コンクリート工学」と呼ばれる分野です。水と混ぜて硬化したセメントやコンクリートの「耐久性」に興味を持って研究しています。

どのような研究をされていますか?

みなさんの身近にあるコンクリートは、セメント、石、砂を水で練り混ぜ、固めた材料です。JISには、コンクリート用材料の品質がそれぞれ定められており、丁寧に試験されたものが構造物やコンクリート製品に用いられています。しかし、石や砂は天然の材料なので、地域によっては膨張性のある石や砂が混ざりやすくなる場合や、コンクリートはさまざまな環境下で使用されるので、風雨、乾湿、化学物質などの作用により、コンクリートにひび割れ、脆弱化、剥離などの劣化現象が生じてしまうことがあります。私は、特に化学的な作用によるコンクリートの劣化現象について、そのメカニズムを明らかにすること、劣化対策や構造物の診断方法を考えることをテーマとして、研究を行っています。現在、私が参画する具体的な共同研究の内容は、後ほどご紹介したいと思います。

この道に進むことになったきっかけを教えてください

東京工業大学で無機材料工学を勉強し、4年生のときに「セメント化学」を専門とする研究室に所属しました。修士課程で、「フジツボなどの海生生物の保護膜により、海洋コンクリート構造物を海水の化学的作用から守ること」をテーマにした研究に出会い、コンクリートの耐久性研究の面白さを知りました。2002年から大阪府吹田市にある公的試験・研究機関に約20年間勤務しましたが、その間に、住宅基礎コンクリートの化学的劣化現象(博士論文のテーマ)、下水関連施設におけるコンクリートの酸劣化、コンクリート内部の骨材やセメント成分に起因する膨張劣化、火災による劣化現象など、一貫してコンクリートの耐久性をテーマとした研究活動に取り組みました。これらの知識を教育・研究機関で活かしたいと一念発起し、2023年度に島根大学で勤務したのちに、2024年度にNEXCO西日本高速道路学共同研究講座(以下、NEXCO講座と表記)に特任教員として着任しました。これまでの知識や経験を、学生指導や高速道路構造物の維持管理、さらにはセメント化学・コンクリート工学分野の発展に役立てたいと考えています。

共同研究講座・協働研究所の利点

鎌田研の学生、尾林君と吉田特任准教授(常勤)

NEXCO講座の役割は、NEXCO西日本の高速道路事業における技術的な課題(ニーズ)と大阪大学が保有する最先端の知見や技術(シーズ)をマッチングさせ、共同研究をスムーズに遂行できるようにサポートすることです。私は、このインタビューを受けている時点で本講座に着任して3ヶ月しか経過していませんが、地球総合工学専攻の3研究室と合計8つもの共同研究テーマが同時に進行し、NEXCOの技術者も参加して定期的に開かれる意見交換会では、大学の基礎研究をNEXCOの現場に最適化しようとする双方の「熱意」を感じています。

また、6月には学生と共にNEXCOの現場に出向いて現地計測を行いましたが、ラボレベルの最新技術を現場でトライして研究にフィードバックできるだけではなく、ラボと現場のスケール感を実際に体感できることは、未来を担う阪大生への教育的な観点からも極めて魅力的な活動であると感じました。研究と現場の距離が近く、研究者と技術者が活発に議論できる心地よい環境のもと、幾つもの高度な共同研究の成果をスムーズに現場に活かせるのが、共同研究講座の利点であり魅力ではないでしょうか。

企業が大学内で研究することの意義

私は建築分野の公的試験・研究機関に勤務していた経験から、建築や土木分野の企業研究においては「実務的な研究」が優先される傾向にあり、基礎的・学術的な研究を地道に積み上げることは容易ではないと感じていました。一方で、実務的な研究を「高度化」させるには、学術的な知見は必要不可欠ですので、大学をはじめとする研究機関とのネットワークは非常に重要でした。例えば、コンクリートに「ひび割れが生じている」ことを評価することで実務的にはなんとか格好はついても、「なぜ」「どのようなメカニズム」で劣化現象に至ったのかを詳しく理解できなければ、本来必要な対策や補修にはつながりません。この「なぜ」を追求できる環境が、大学には整っています。また、大阪大学の人的・物的に恵まれた環境の中で研究を行えることは、企業が持つ技術の高度化だけではなく、企業の実務者にも有意義な経験になっていると思います。私は大阪大学の立場から本講座に参画していますが、NEXCO西日本から配属される招へい研究員のみなさんは、15年以上の実務経験を積まれた中堅の技術者の方々で、現場の知識を豊富に有する技術者が大学で高度な研究に集中できることは、実務と研究が直結しており、学生が研究を行うこととは違った意義があります。招へい研究員の博士号の取得にもつながっており、広く工学的な学術分野の発展にも貢献していると感じています。

この研究で難しいことは?また研究が進まない時にはどうやって乗り越えますか?

ここでは、私自身が関わるNEXCOとの共同研究についてお話しします。私は、コンクリートの非破壊検査技術をご専門とされる鎌田敏郎教授との共同研究に参画し、学生を指導しながら研究に取り組んでいます。交通の安全を確保するため、降雪や道路の凍結が懸念される地域では、道路に凍結防止剤を散布します。NEXCOでは、凍結防止剤に「NaCl(塩化ナトリウム)」を用いているのですが、このNaClがコンクリートに浸透すると、「コンクリート表層の化学的劣化」「鉄筋コンクリート内部の鉄筋腐食」「アルカリシリカ反応と呼ばれる劣化現象の促進」など、さまざまな劣化現象を生じさせる可能性があります。橋梁におけるコンクリート床版を想定し、これらの劣化現象を化学的および力学的に評価する手法を研究して、床版の取替え時期の工学的判断に役立てようと取り組んでいます。この研究で難しいことは、コンクリート表面から進行する「化学的劣化」や「アルカリシリカ反応」に関する既往の知見が乏しいことや、コンクリート表面から深さ方向へと徐々に進行する劣化現象について、局所的な力学的変化をどのように捉えるのか、新たな手法を確立する必要があることです。コンクリート床版から円柱状のサンプル(コンクリートコアと呼ばれます)を採取して詳しく分析する手法や、非破壊検査技術により広範囲の状態を効率良く検査する手法を検討し、課題を解決したいと考えています。研究が進まない時は、国内外の既往研究をしっかりと整理してヒントを得ること、交流のある研究者とさまざまな意見交換を行うこと、地道に実験で手を動かしながら新たなアイデアを積み重ねていくことで、乗り越えてきた気がします。食事にでかけたり、趣味を持つなど、気分転換も重要です。

人々に伝えたいこと、またこれから研究者、あるいは理系を目指す方々へのメッセージがあればお聞かせください。

NEXCO講座は今でも充実していると思いますが、大阪大学のシーズは地球総合工学専攻に限定されないので、思いもよらない出会いに期待しています。こういう期待感を持てるのも、大阪大学で活動する共同研究講座の利点かもしれません。また、私が島根大学で取り組んだ「コンクリートのカーボンニュートラル」に関するテーマは社会的に重要な課題となっており、コンクリート構造物において近い将来考慮すべき内容です。本講座の共同研究を起点とした技術が、より広く社会に貢献できると、本講座の意義はさらに大きくなるのではないでしょうか。

さて、私は2023年度から大学で働く機会を得て、島根大学で勤務したのちに、NEXCO講座でお世話になっています。幸いなことに、吹田市内の旧職場や島根大学とも共同研究を継続しており、NEXCO講座にも有用なさまざまな知見を得ながら研究を進めることができています。私は、実務者・研究者として、これまで少しずつ地道に経験を積んできました。研究における閃き、研究成果が社会に役立ったことを実感できたときは、研究者としての充実感を得られた瞬間ですが、私は、その過程で形成される人とのネットワークが一番の「ご褒美」であると感じています。どの職業も同じかなと思いますが、人とのつながりが、自分の人生を豊かにしてくれています。周囲の人に恵まれ、今日の研究活動につながっていることを実感しています。これから研究者を目指すみなさんは、新しいことに挑戦する意欲にあふれた人ばかりだと思いますが、研究の内容だけではなく、どんな出会いが待ち受けているのか、楽しみにしながら研究者を目指してください!

左から中村招へい研究員(2024.7月末まで)、吉田特任准教授(常勤)、友村招へい研究員(IoCプラザ  講座居室前にて)

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